育ち合いの種

 

 「決まっている方が楽!」と、すぐに答えるのは、私が週に一度授業を受け持っている保育者養成校の学生たちです。
 「制服があれば、何を着ていこうかと考えなくていいし、給食があれば、何を持っていこうかと考えなくていいし、座席が決まっていれば、誰の隣に座ろうかと考えなくていいし」と言うのです。
 三月には学校を卒業して、多くは四月から幼稚園や保育園で子どもたちと生活を始めようとする学生たちがこんなふうで大丈夫かしら? と少し心配になります。

 

 さて、相愛幼稚園では、四月に入園を控えた園児のお母さんが鞄や靴袋、絵本袋などの用品を準備する季節になりました。どれもサイズの決まりはありますが、色、柄、装飾などは各自に任されていますし、自分で作るか、人に頼んで作ってもらうか、既製のものを買うか、これも各自の自由です。
 二人目のお子さんの入園を前にしたIさんは、「上の子の時は、子どもの好きな柄で手作りしたけれど、三年間のうちに子どもの嗜好って変わるんですよね。」とおっしゃいました。
 Iさんのお宅のMくんは、入園の頃、「トーマス」や「トミカ」などの乗り物が好きでした。しかし、年中・すみれ組になると「ムシキング」に夢中。そして、年長・ばら組の今は「ポケットモンスター」に興味が移っていったそうです。

 

「こんなとき、皆さんがお母さんならどうしますか?」と私は授業で、学生たちに問いかけてみたくなりました。
 「だから、自由って面倒。決まっている方が楽!」と答えが返ってくるような気がします。

 

 Iさんの場合、年中組のときは「このまま、トーマスの鞄を使って」とMくんに言い、年長になった時、「トーマス」柄の鞄から「ポケットモンスター」柄の鞄に作り替えてあげました。

 

 また、先日、年中・すみれ組でお弁当を食べていたときのことです。
 私の向かいに座っていた男の子は「トーマス」柄のランチョンマットを使っていたので「トーマスが好きなの?」と聞くと、「僕はハム太郎が好きなんだけどね、お母さんがトーマスにしてっていうから」と、その子は笑って答えました。

 

 子どものために思いを込めて作る母がいて、自分の好みを持ちつつも、時には母親の言い分を受け止められるまでに育った子どもがいて。“全園児お揃い”の用品で統一しないからこそ見られる親と子の育ち合い。
 自主自発を大切にする相愛には、“育ち合いの種”があちこちに散りばめられているのです。

〔 園長 佐川 曜子 〕