「梅ジュース屋さん、開店でーす!」とジュース屋の店員になった子どもたちが声をかけると、園内のあちらこちらで遊んでいた子どもたちが、一目散にジュース屋につめかけ、あっという間にお店には長蛇の列ができます。
「只今、満員ですから、ちょっとお待ち下さい」
「ここの席が空きましたよ。どうぞ!」
と、お客は店員さんに促されて着席し、運ばれてきた梅ジュースをゴクッとひと飲み。
「あー、おいしかった。ごちそうさま!」
「明日もお店屋さんあるといいなー」
と、またそれぞれの遊びの場に戻っていきます。
6月の下旬から7月にかけて毎年繰り返される「梅ジュース屋」の光景です。
6月半ば、ばら組のKくんのおばあちゃまのお宅の庭の梅の木に実った梅をたくさんいただきました。早速、テラスにテーブルを出して、洗った梅の実に穴を開ける作業をしていると、梅雨入り前の爽やかなそよ風にのって、ほんのり甘酸っぱい香りが辺りに漂い、その香りにさそわれて子どもたちが集まってきました。
「梅ジュースって美味しいんだよねー」と年中児が言うと、
「今日のお弁当の時、飲めるの?」と年少児。
「今日はダメだよ。梅の中から汁が出るまで待たないとね。」と年長児。
自由な遊びの場面ではいつもこんなふうに経験のある年中・年長児が新入児に教えてあげたり、助けてあげたりすることが多くみられます。
午後には数名の子どもたちと氷砂糖を買いに出かけ、帰ってきてから子どもたちの手で、専用のポットに「梅・氷砂糖・梅・氷砂糖……」と交互に入れて、台所に置きました。
汁がたっぷり出るまで約10日。いよいよジュースが出来上がり、このところ連日ジュースの味を堪能している子どもたちです。
さらに、今年はトマトの苗もたくさんいただきました。こちらは、食品会社のキャンペーンにT兄妹のお母様が応募して下さり、いただいたものです。子どもたちは水やりをしながら、トマトの実が赤くなるのを待っています。緑色の小さなトマトの実が赤く熟したら、幼稚園で育てたトマトをみんなで分かち合って味わいたいと思っています。
ファストフードに対して、スローフードが推奨されている昨今、2005年に「食育基本法」が施行され、幼稚園を含む諸学校でその展開方法がいろいろと話題になって
います。
食育ブームの只中にあって、相愛の子どもたちは、梅ジュース作りや梅ジュース屋さんごっこ、また、トマトの栽培や収穫などを通して、育てる楽しみ、待つ楽しみ、作る楽しみ、友だちと一緒に味わう楽しみを経験しています。このような経験こそ、環境を通して行われるという幼児教育の本質であるのです。
〔 園長 佐川 曜子 〕