軽やかな心もち
今から4年ほど前、今年二年生になるEちゃんのお母さんが「この間、三角広場に行く時、手をつないだ年長のばらさんが、『はやく!』とEの手をつよく引っ張ったらしいのです。年少のEは、『私は、大きくなったら優しいばらさんになりたい。』と言うんですよ。」と教えてくださった言葉がずっと私の心の隅にありました。
時は流れ、2025年の冬休み明け、ばら組の子どもたちが編み物を始めました。ホールの「編み物コーナー」には、完成品のイメージが湧くように、過去の作品(財布やポシェットなど)と一緒に写る製作者の写真を掲げています。ばら組の子どもたちは、歴代のばら組の子どもの写真を見ながら、「この子は、今、何年生なの?」とか「名前は何っていうの?」とか写真の先輩たちに興味をもって尋ねます。
その時、Aちゃんが「あっ、Eちゃんだ! 私がひよこ組の時、テラスで抱っこしてくれたんだ~。優しかった~」と懐かし気に呟いたのです。
私は、ほのぼのと温かく、うれしい気持ちになって、早速、Eちゃんのお母さんにAちゃんの呟きを伝えました。すると、その数日後、「実は・・・」と教えてくださったのです。「私もEも『やさしいお姉さんになる宣言』を覚えていなかったわ~。まだまだ家では、算数がわからなくて、癇癪をおこしたりするけれど、心温まるエピソードにEも先輩の役割を果たせているのだと、親は、ニコニコ。そして、Eにとっては、自信につながるうれしいことでした。」と。
つないだ手をつよく引っ張られたことを恨みに思うのではなく、そのことをきっかけに、「なりたい自分」を思い描いたEちゃん。さらに、気負ってそれに縛られることなく、大きくなったEちゃん。つよく引っ張られた我が子を不憫に思うのでもなく、相手を意地悪な子だと決めつけるでもなかったお母さん。
そして、数年後。親子共に「あら!? そんなことあったかしら・・・」と覚えていない現実。
なんて、軽やかな心もちなのでしょう。
子どもは、楽しく、嬉しい経験をたくさん積むことで心が満たされ、育ちます。一方、日常生活で出会う、悲しいことや辛いこと、苦しいこと、それら一見マイナスに思える感情や葛藤を乗り越えることも子どもの成長を促す大切な経験です。
一人ひとりの心に蓄えられた「育ちの物語」。その中には、親も保育者も知らないことが数多くあるのでしょう。すべてをご存知なのは神さまだけ。
園庭のハクモクレンの蕾が膨らんで、年長・ばら組の卒園の日が近いことを知らせています。
4月に進級する年中・年少・満三歳児クラスの子どもたちも大きくなりました。
いつの時も共にいて、その愛の中で一人ひとりを育んでくださった神さまに感謝します。
保護者の皆さまと子どもの育ちを喜び合いながら、3月の日々を歩んでいきたいと思います。
〔 園長 木﨑 曜子 〕

「 わたしはあなたと共にいる。 」
( イザヤ書43章5節 )