「思い出したい過去」を紡ぐ

 今年も厳しい暑さの夏でした。それに加えて、地震や台風、局地的大雨、川の事故など、心配や心痛むことの多い夏でしたが、それぞれが夏の経験を携えて9月を迎え、幼稚園の二学期が始まります。

 さて、私は、以前見た保育誌の書評に惹かれて「ライオンのおやつ」(著者:小川 糸)という本を夏休みに読みました。新刊本ではありませんから、ご存じの方もあるかと思います。
 
若くして余命を告げられた主人公・海野 雫は、瀬戸内の海が見えるホスピス「ライオンの家」を終の棲家として選びます。このホスピスでは、毎週日曜日、人生の最後にもう一度食べたいおやつをリクエストできる「おやつの時間」があるのです。
 
“人生の最後をどう生きるか”という難しいテーマを小川 糸さんの持ち味であるおいしい食べ物と優しい文体で綴るこの本。泣けるのですが、しみじみと柔らかい気持ちで読みました。
 
ちなみに私がリクエストするとすれば、「サツマイモの天ぷら」です。小学生の頃、半日授業の土曜日の午後、一番うれしかったおやつは、母の揚げてくれるお芋の天ぷらでした。

 おやつには、捕食としての「からだのおやつ」ともうひとつ、心を満たす「こころのおやつ」という二つの役割があります。
 「こころのおやつ」は、誰かと一緒に食べたり、おしゃべりしながら楽しく食べたり、おやつを食べる時間そのものが、心の栄養になるようなおやつの食べ方です。
 相愛幼稚園のおやつは、まさに「こころのおやつ」といえましょう。一学期も梅ジュースや梅ジャムクラッカーをはじめ、K君の家の庭で採れた「夏ミカン」、Iくんのおじいちゃんが育てた「ジャガイモ」で作ったガレット、幼稚園のプランターで種から育てた「枝豆」などなど、おなかを満たすほどの量ではないけれど、みんなで喜んで味わいました。
 けれども、毎回、全員が喜ぶおやつというのも難しいものです。7月の夏期保育二日目のおやつは、スイカでした。スイカ割りをして遊んだ後、切り分けたスイカをもらう列に並ぶ子どもたちの中には、少しでも大きいスイカを選ぼうとする子や「嫌いだから要らない」と、もらいに来ない子、「先生、私、スイカは苦手なの。でも、私たちのために先生がスイカを買ってくれたんでしょ。小さいのを食べるからください。」と相手を慮って受け取る子など、さまざまでした。

 「人生の最後に食べたいおやつは何ですか?」

 おやつを思い出そうとすると、そこに結びついているのはたいてい幸福な記憶だと思うのです。

 保育は、あたたかな光に満ちた過去をつくる働きです。神さまから託された子どもたちに丁寧に穏やかに関わりながら、私たちは、「思い出したい過去」を子どもたちと一緒に歩んでいます。 
 食や読書、スポーツなど楽しみも多い秋。
 
一人ひとりの心が喜びで満たされますように。

 さあ、新たな日々へと漕ぎ出しましょう!
                                 (  
園長 木﨑 曜子 )

 

                      「 主において常に喜びなさい。 」
                          〔 フィリピの信徒への手紙4章4節 〕

武蔵野相愛幼稚園

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