なぜ、あの子は貰えたのですか?

 

 初夏に方々からいただいた梅を使って作ったジュースとジャムを味わい、楽しんだ一学期でしたが、それでもまだあるジュースとジャムは、夏休みの間も冷蔵庫で貯蔵され、10月いっぱい折々に保育の中に登場しました。

 

 さて、このところ、遊びが停滞し、保育者の傍らで過ごすことの多い4歳児のAちゃんのことが気になっていました。
 10月初め、「梅ジャムクラッカー屋さんをしよう」と誘いかけてみると、小さな声で「うん」と言いました。
 「誰か、友だちも誘ってみる?」と私が問うと、「Bちゃんがいい。」と答えました。
 Bちゃんに声をかけると、「やりたい!」と二つ返事で仲間入り。
 台所でクラッカーに梅ジャムを塗って、テラスにテーブルを運んで、開店準備が完了しました。 
「梅ジャムクラッカー屋、やってまーす!」と呼びかけると、あっという間にテラスは大行列になりました。
 お客「クラッカー、ください」
 店員「はい、どうぞ。」
 お客「ありがとう」
 店員「どういたしまして」のやりとりが、何度も繰り返され、見る見る間にクラッカーが売れていきます。
 一人一枚なのですが、あわよくばもう一枚もらえるかな? と立ち去らない子、
 「はい、一列に並んで! もらう時は『ください』って言ってからだよ」とクラッカー屋の店員であるかのように仕切るCちゃんやらで店の周りは大賑わいでした。
 Aちゃんは、客対応に一生懸命でした。
 その時、3歳児の女の子、Dちゃんの順番がきました。Dちゃんは、クラッカー屋のAちゃんに黙って手を差し出しました。すると、店員を気取って仕切るCちゃんが「『ください』って言わなきゃもらえないよ」と言いました。
 その声にDちゃんは、プイッとそっぽを向いて店のテーブルの脚元に座り込みました。それは、一瞬の出来事で、その後も次々とお客さんの列は続きました。
 最後尾の子がもらい終えた時、5分程その場にへたり込んでいたDちゃんにクラッカー屋のAちゃんは、「はい、どうぞ」と梅ジャムクラッカーを差し出しました。
 すると、Dちゃんはニコリと微笑んで、Aちゃんから受け取ったクラッカーをパクリと食べました。
 私は、この場面に立ち合えたことをとても幸せに感じました。


 クラッカー屋閉店後、この日、見学にきていた保育の勉強をしている大学生が先ほどの光景について質問をしてきました。
 「先生、なぜあの子は、クラッカーを貰えたのですか?」と。
 「クラッカー屋のAちゃんも自身の感情の表出に難しさを感じている時でしたから、Dちゃんの気持ちが痛いほどわかったのでしょう。」と、私は答えました。

 他人ごとではない事柄として、Dちゃんを放っておけないAちゃんの気持ち。その共感的理解によって助けられたDちゃん。
 遊びの中での子ども同士の育ち合いは、私たち大人の想像以上に豊かなもので満ちています。
 この日の帰り際、「あー、今日は最高に楽しい日だった」と言って、Aちゃんは帰っていきました。

   〔 園長 木ア 曜子 〕  

 

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聖書のことば

「 同じ愛を抱き、心を合わせ、思いを一つにして 」

                   〔 フィリピの信徒への手紙2章2節 〕