牛との出会い

  井の頭公園の池の水が神田川に流れるところに、水門があります。そこから坂道を上ると井の頭通りにつながり、水門通りと名付けられています。以前、わたしの子どもの頃のことですが、その水門の辺りに一匹の山羊が繋がれていました。そこを通るとき、その山羊に挨拶をしたことは、今でもなつかしい、忘れられない思い出の一つです。心に残っているのは、その辺りの景色というよりも、山羊です。


 多くの子どもたちにとって、心に残っている動物といえば、井の頭文化園では象の花子、上野動物園というと、パンダのシャン・シャンでしょう。子どもたちの人気者です。吉祥寺駅北口に、井の頭文化園にいた花子の像が置かれていますが、花子は、たくさんの子どもたちに忘れられない思い出を残してくれています。わたしにとっても、井の頭文化園の動物たちとの出会いは、忘れられないこととなって心に残っています。


 でも、そうした、いわゆる人気者でなくても、動物園には、たくさんの動物たちが、子どもたちを待っています。

 小学生の時のことですが、文化園で写生をする授業がありました。何でもいいから、動物を写生するようにとの課題でしたので、生徒たちは、てんでんばらばらに散って行って、描きたいものを探しました。いざ探してみると、実にたくさんの動物がいることに、改めて気づかされたことを覚えています。
 それまでは、見ようともしないで、通り過ぎていた動物がたくさんいました。そのとき、それらの動物たちに、心をひかれたことは、今まで知らなかった自分の発見でもありました。
 それらの動物の中から、実際に、自分の画板に描く動物を決めることは、ほとんどの生徒にとって難しいことで、決めるためには、多くの時間がかかりました。
 わたしは、井の頭文化園には、普段からよく遊びに行っていて、そこにいるたくさんの動物たちをよく知っていましたから、いろいろな動物が、すぐに頭に浮かび、その動物のところに行ってみるまでもなく、考えることができました。いくつかの動物を考えて、これにしようかと決めかかったのは、珍しさからか、騾馬でした。しかし、もう一つ気に入らないところがあり、他に探すことにしました。園の中を、何かないかと探し歩いて、一番奥まで来ました。
 その頃、そこには、牛がいました。その時、何故か、理由はわかりませんが、「牛か!」という気持ちになりました。歩き回って、決められなかったので、これで終わりというわけで、動物たちの方から決めてくれたように思えたと言ったらいいかと思います。そこより奥には、動物がいなかったのですから。
 今、思っても、何故、牛を描く気になったのか、不思議な気がします。その時、牛は、大きな腹を横にして、座っていました。それまでは、牛というと、角とか、顔とか、背中やしっぽが印象に残ったイメージだったのですが、その時は、牛の大きな腹が、わたしに、「何か」を語りかけていたのだと思います。


 わたしにとっての、もう一つの、牛の、「存在」を知らされたことだったのでした。今、考えても、その意味は分かりませんが、わたしに、何か大切なことを示唆してくれたように思います。「もう一つの存在」は、何にとっても、大切な「何か」のように思います。
 子どもたちの一年間の歩みが終わろうとしている今、一人ひとりが持っている、それぞれに違う、その「何か」を見つけたいと思います。

〔 理事長 長山 恒夫 〕

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