心の安全基地

 新年度が始まってまもなくの朝のことでした。

 お母さんと離れたくないと言って道に寝ころび、幼稚園の門をくぐるのを懸命に拒む年少組のA君と息子の抵抗に少々疲れた表情を見せながらも必死になだめて園の中に入ってほしいと願う母親の格闘する姿がありました。

 そして、その周囲にはA君に声をかけてくれるお母さんや一年前のわが子と自分の姿を重ね合わせて、A君親子のやりとりを「懐かしいわ〜。うちも一年前は同じだったわ〜」と言って余裕の表情で見守る年中組のお母さん、「うちは三人の子どもが一度も登園を渋って泣いたことがないから一度くらいはこういう経験もしてみたかったわ〜」と言うお母さん、また、「ママ、頑張れ〜」と心の中でA君のママにエールを送るお母さんたちの励ましや温かいまなざしがありました。

 幼稚園の入園という節目をむかえ、子どもはどのようにして親のもとを離れて、一定の時間、別の場所で過ごせるようになるのでしょうか。

 “基本的信頼感”とも呼ばれる“心の拠り所としての安全基地”の確立している子どもの心は外側の世界(この場合は幼稚園)に向けられ、外側の世界を探索する勇気を持てます。安心して外側の世界を楽しむことが出来るのは、危険を感じたり、疲れて戻ってきたときには喜んで迎えられると信じているからです。

 相愛幼稚園では、母親と離れるのを嫌がって号泣している子のお母さんが幼稚園で子どもと一緒に過ごすことがあります。
 それは、泣いて嫌がる子どもを無理やり親から離して引き取っても子どもは「あきらめる」ことは覚えるでしょうが、人を「信頼する心」を育てることは出来ない
からです。

  母親と離れ難い子に親がついていると周囲の子どもも甘えたくなって、「『わたしのお母さんも来てほしい』と言わないかしら…」と思う方もいらっしゃいます。しかし、心に安全基地をしっかりともっている子は泣いている子の気持ちに寄り添うことが出来、どうしようもなく辛いとき、助けてほしいと願うとき、母(大人)は傍にいて助けてくれるのだと人に対する信頼感を更に強めていくのです。

 この安全基地を心に築くには、愛情深く求めに応えてくれる人の存在が必要です。それは、手をかけ、時間をかけ、かかわる中でしか築けないもので、単なるわがままを許すということとは違います。

 人にはさまざまな感情があり、それを表現しながら生活しています。子どもは自分の感情の表出に対し、親や保育者に愛情深く応じてもらう経験を重ねながら、
心に安全基地を築き、未知の世界を切り開いていく勇気を得、その楽しさを知るように
なるのです。
 それは、その子の一生を支える大切な力であると信じています。

                            〔 園長  木﨑 曜子 〕   

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聖書のことば

神は愛です。愛にとどまる人は、神のうちにとどまり
神もその人のうちにとどまってくださいます。
                ヨハネの手紙一 4章16節

 

 

武蔵野相愛幼稚園

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