「味覚」の記憶は「愛され記憶」

 

 気の合う友だちとテーブルを囲み、お家の方が作ってくださったお弁当を広げていただく時間は子どもたちにとって、心もおしゃべりも弾む楽しい時間です。それは私にとっても楽しみな時間で、お昼になると私もどこかのクラスに混ぜてもらって、一緒にお弁当をいただきます。

  お弁当箱を開け、好物が入っていたときの子どもの嬉しそうな表情を見ると傍にいる私も幸せな気持ちにさせられます。また、反対に苦手なものが入っていたときの子どもの格闘の様子を見ることもちょっとした楽しみ(ごめんなさい。当人には申し訳ないのですが…) でもあります。
 年長・ばら組でのお弁当の時間のことでした。Aくんはどうしても、スナップエンドウ (スナックエンドウとも呼ばれる) を食べられずに苦戦していました。早く食べ終えて、Aくんと一緒に遊びたい友だちが側でいろいろと言っています。
 「苦手なものから食べちゃえばよかったのに…」 「好きなものと苦手なものを交互に食べるといいよ!」
 Aくんはその言葉に反論して言いました。
 「苦手なものから食べて、お腹がいっぱいになったら、好きなものを美味しく食べられないじゃないか!」「好きなものと苦手なものを交互に食べると口の中で味が混ざって、好きなものも苦手な味になっちゃうから嫌だ!」 と。
 その日、Aくんは弁当箱の中に入っていたスナップエンドウを半分を食べたところで時間切れとなり、半分は残すことになりました。スナップエンドウと格闘している間に友だちと遊ぶ時間もなくなり、帰りの集会の時間になりました。私は帰りの身支度をしたAくんに「お豆、よく頑張って食べたね」と声をかけると、Aくんは黙って私の目を見て微笑みながら頷きました。

 

  また、別の日、年少・ひよこ組のBくんはおにぎりの横に入っていた “蓮根のきんぴら” に苦戦していました。
 Bくんは、「シャキシャキしたきんぴらが好きなのに、今日のはしんなりしているから嫌だな〜」 と言いました。私は 「そうなのね」 とBくんの好みを聞きながら、3歳にしてこの的確な表現に感服でした。(その後、Bくんは時間をかけてきんぴらを完食!!)

 

 お家の方が作り、持たせてくださるお弁当を通して、子どもは食べ物の風味や食感を敏感に感じ取り、食に対する好奇心や探求心を育んでいます。
 食べることは、いのちをつなぐことであり、食べる意欲は生きる意欲につながるのです。

  「娘たちへのお弁当作りは私の自己満足に過ぎなかったかもしれませんが・・・」 と照れ笑いの中にも晴々しい表情を見せながら、末っ子の卒園式の日にそうおっしゃったお母さんがいました。
 三つ違いの娘三人に都合9年間お弁当を作って持たせたこのお母さん。私は 「お母さんの作ってくださったお弁当は娘たちの体を大きくしたのはもちろんのこと、一人ひとりの心を育んだと信じていますよ」 とこたえました。

 

  武蔵野相愛幼稚園はお弁当の幼稚園です。
“味覚” は “家族から愛された記憶” として子どもの心に刻まれ、人生をより豊かなものにしてくれると信じて、これからも子どもたちとお弁当の時間を楽しみ、大切にしていきたいと思います。

〔 園長 佐川 曜子 〕

 

 

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